青空を仰げば病める影もなし
母炊いたあの味噌汁の味を恋い
子の歳を一つ数えて一つ老け
蜩の中にも低音歌手があり
栗を煮る湯気が故郷を匂わせる
百姓の夢を四月の雪嗤う
風邪の妻労わるリンゴの色を撰り
十二月妻には妻の義理があり
働いた頃の秋刀魚の味を恋い
雪おろし屋根と屋根との佇ち話
妻の手の柔さを奪う冬の水
月あかりほめてお客の帰る音
記念樹の太さを抱いてみる母校
渡辺苳里さんの略歴
大正2年10月秋田県生れ。昭和17年1月北柳吟社入会。『浮雲』第二集(昭和35年)、『浮雲』第三集(昭和45年)、『浮雲』第四集(昭和55年)出詠。