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あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

栗生楽泉園  武内慎之助さん


岩の家


私に人間であって人間ではないという日が来た

仮面をかぶって鬼になった



深い谷底に岩の家

それは鬼の家 私の家です

大きな立札が掲げてある

人間ならどなたでも歓迎します

けれど誰も来ない



なぜだろう?

私は気配を殺している

私は人間に嫌われ恐れられている

私を見たら人間は石を投げるだろう

私は感情を押える

感情がこわれる

希望もなくなってしまう

岩屋の柱にぶつかり苦しみもだえ

私は人間になりたい

人の言葉でこの鬼の心を伝えたい



人間が来た

大きなずた袋

弾のない短銃

靴をはいて

私の住居を覘く はじめは好奇の眼で

やがて私をみつけふるえていた

人間はしゃにむに逃げて行った








 



妻の手


妻はこんきよく洗濯している

わたしのシャツ ズボン

知覚のない手に石鹸袋をくくりつけてもらい

洗濯する盲妻の姿 私にも見えない

あわの中からきこえる音だけ

軽症の頃の妻は

ふっくらとした柔かい手をしていた

包丁のさばき 針仕事も上手だった

いまでは十本の指がみんな曲がり

それでも妻は

ほがらかに愚痴をこぼさない



洗濯の音がさわやかにきこえる

私は田舎廻りの役者にすぎない

高原の野外劇場に抱えられてより二十有余年

真剣に舞台に取り組んで来た

ヘレンケラーの三重苦の稽古した

数々の芝居の美しさも稽古した



知覚のない両手に点字書を抱えて

舌端で読む稽古を続けながら

今はレプラの盲目の果てを

静かに稽古している

夏の夜も

秋の夜も

冬の白夜も

昨日も今日も

懸命になって台詞の稽古をしてゆく



洗濯の音がさわやかに聞える














納められた骨



錆びた錠前がきしむと

雨の中で骨堂の扉がひらく

瞼を熱く泣きはらした妻が

急死した夫の骨をだき

二人の子供がそばに立つ。



骨堂は城だ 中はアパートだ

無数の骨箱が輝く秋の星にも見える

骨堂の明りに浮かびでる

下積みになった骨箱

名も知らない文字も読めない 古く毀れた骨

無縁の骨が匂う。



ここは無神論者 キリスト者 仏教者 天理教者の

居並ぶ骨 骨

やがて骨のアパートから声がおきる

私の胸の扉に突き刺さってくる

滲透してくる

未来に早く来い。



生れ出て人間として何をして来たのか

心弱さが沁み透ってくる

癩者盲目の

オンボロの年輪が緊きしまる

さらに未来の声が

漂泊として胸の扉から押寄せる、ひしめく

生きよ 生き抜け、と。

ああ納められた友の新らしい骨箱に

鮮やかな墨字

友の妻が手離さない骨に

まつわりつく足長の蜂。

骨堂の城に納まる人生と骨堂の外に生きてのがれゆく

人間すべての

城。



武内慎之助さんの略歴
1908年3月1日京都府に生まれる。1938年栗生楽泉園に入所。1950年失明、1953年より詩作を始める。詩集『裸樹』(1958 私家版)。短歌もあり、『慎之助歌集』のほか、栗生楽泉園の合同歌集『盲導鈴』、『山霧』、『冬の花』などに残っている。1973年4月5日死去。




2030年 農業の旅→ranking

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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在66才、農業歴30年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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