板の間に落せし箸はまひしたる我が手に遂に探りあへずも
海苔巻きのすしはもうまし現身の眼見えなば尚うまからむ
たらちねの貧しきを我が思ひつつ折詰のすしいただきにけり
戸をたてて大雪の朝を籠り居れ心は痛し友の訃報に
手折り来し桜の花の一枝を友は持たせぬ盲の我に
歌人の多くが肺をわづらへり血吐きし歌を聞けばかなしも
友の柩一夜守りて疲れたる耳には響け朝
我が心やわらぐ如しかそかにも歌てふものの分り来る時
盲のみ残りてラヂオ聴きにけりたまにキネマのあるてふ宵は
初日さへ我には見えね心には明るく広き年を迎へむ