あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

栗生楽泉園  谺 雄二さん(6)



ライは長い旅だから


ライは長い旅だから

ときに、足裏にキズ穴があく

こいつがまた痛みもしないから

穴のあいた足で、草津高原の雪踏みしめ

今朝逝った人の葬列にも加わる

いのちをかなしめ、暗いキズ穴から

ボクの体液が滲み出て

雪道を、くろく汚してゆく。


ライは長い旅だから

めったなことで天なんか仰ぎはしない

両眼を失い、手指はもがれても

舌先で点字をたたく

唾液ベタベタ乾く間もなく舐めまわし

そこに探りあてる輝かしい呪詛

この旅の果てには確実に遺さねばならぬ

おのが時代の、それは「点鬼簿」。


ライは長い旅だから 

チチハハや、生まれ育ったふるさとを喪す
 
つまりボクらは、いつでも

今日此処を出発する習慣なのだ

病室では、おまるにまたがり

おババが唄う流行歌”命あずけます”

流浪とよぶもよかろう

この尾根で年老いた少女の旅はついに終らない。


ライは長い旅だから

今日が明日へつながると信じていい

ある詩人は、「ライ者は来者」と書いた

もはや失うべくもないボクらにとって、旅は

侵されてなお不遜なる実在

やがて祖国が自らを解き放した日

きっとボクらを見出すにちがいない

だからときにはゲラゲラ笑って、この旅をゆく。











サチ子

サチ子 ある日ボクは

「やぁ」と手をあげてあいさつしながら

急ぎ足で君に歩み寄るだろう

「ごめん ごめん 
すっかり遅れてしまって・・・」

けれどサチ子はボクを知らない

だから君はおどろいてボクを見るだろう


サチ子 そのとき君の前に

ボクはどんなふうに写るだろうか

顔も手もケロイド状にひきつり

わきあがる思いのたけの微笑さえも

君の瞳の中でたちまち屈折し

暗くぶざまに変色してしまわないか

どこか地の果てからの長旅にくたぶれて

ついに誰彼のみさかいもつかず

いきなり君に声をかける無頼

そんな惨めさをボクに見出すだろうか


サチ子 しかしボクは

君のその眼差しにたとえ嫌悪の感情をよみ

あるいは娘らしい警戒心から

いちずにボクに身がまえて あらわに

また無言のするどい抗議に射られても

ボクはそれに耐えてひるむまい

君への愛にきっとボクは支えられる

「サチ子 また会えたね
さぁボクの握手を受けとっておくれ」


サチ子 おぼえているだろうか

君はいちどボクに会ったことがある

でもあまりに幼かったから

君の記憶に残っているかどうか・・・

あれは君がまだ四歳の晴れた五月

養母に手をひかれてむさし野の奥処 

トゲトゲの柊の森にボクを見舞ってくれた
 
そこに盲目のひと、白いホータイのひと

ひっそりとライ病む一千のひと達

皆同じ家族のように君にやさしかった


サチ子 君は春の柊の森の中で

一日ボクと遊んで過した

小さな花畑に咲く赤や黄のチューリップ

その花びらをなぜだか

ボク達は一枚一枚むしりとっていた

十七歳のボクにライへの怒りは重すぎた

サチ子 いまさら隠しはしない

君の祖母とボクではないもう一人の叔父は

当時すでに柊の森の墓地で

いつまでもめざめぬ眠りについていたのだ


サチ子 あれからボクは

あの柊の森を抜け出て

上州草津のこの尾根にいのちを寄せた

ライにまみれて生きてきた

せめてサチ子健かなれと祈り

時折りは君の養母=ボクの姉に手紙を書いた

だがそれが何になろう

サチ子にボクを秘めておくことが

そのことだけがただひとりの姪への愛なのか


サチ子 ボクはもはやライに癒えた

身体いっぱいに醜い傷痕

ライの後遺症をふかく刻んではいるが

ボクはやはり君をたずねよう

君が実の母親と思いこんでいるひとは養母で君にとっては伯母

そして君がひそかに父だと想像していた者は

君がうまれる以前からライを病みつづけ

いま癒えて君の目の前に立つボク

戦争とライから生き残ったただひとりの叔父

サチ子 君の父母は離婚して

この日本のどこかでそれぞれくらしている

そんなかなしいひと達をゆるしてやれ

「サチ子 二十歳おめでとう
ほんとに遅れてしまって ごめんよ」

(*柊の森=東京・多摩全生園)



2030年 農業の旅→ranking


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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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