あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

栗生楽泉園  松崎水星さん(1)


回想


病室からレントゲン室までの距離は

五十米にも足りなかったけれど

土の上を歩くと云うことは

ベッドに寝たっきりの私には

こよなく嬉しいことだった


足萎えの私は看護婦に支えられて庭に出た

昼近い初冬の柔かい陽差しを浴びて

すずらんの花のように甘く漂う

看護婦の体臭に 私は

忘れていた君の面影を思い出した


二十数年前の白根神社の祭の夜

赤い名古屋帯に縞の単衣の君は

悪い片足を労わるように

私と腕を組んで佇っていたのだった


波が寄せて返すように

みこしは近づき 遠去って行った

私達も旅館に帰ったのだったが━━


半年の灸点治療は二人の距離を遠くした

病気の快くなった君は故郷へ

病気の悪くなった私は国立療養所へ

互に互の面影を抱いて

別れなければならない
えにしだった












祈り




風花の舞う師走も末の寒い朝

君が担ぎこまれたこのベッドに

今日は僕が

肺を侵されて臥している


洗濯板のような胸を撫でながら

昼餉を待ち侘びていると

なんでもかでもよく食った

君の蒼白い顔が瞼に浮んでくる


君はかすれた声で鳥肉が喰いたいと云った

僕は懸命に探した

だが 終戦後の緊迫した食糧事情の中で

鳥肉が手に入った時には

君は既に食慾を失っていた


宗教を否定しつづけて死んで行った

君の魂は

今頃何処にどうしているだろうかと

そんなことを考えているうちに

ふと 自分の祈りの足りないことに気がついて

たまらなく寂しくなって来た













雪が降っていた

天女の涙の結晶なのだろうか

雪は音もなく降っていた

安静時間中の病室は静かだった


私は雪が好きだった

雪が降ると故郷の匂いが感じられた

音もなく降る雪の音を

私は聞いていた


鈴の音が聞こえて来た

と思ったら

シベリヤで抑留中死んだと云われていた

弟の
そりが帰って来た


死んだ筈の弟が帰って来たことに

私は少しの疑問も抱かなかった

自在鉤に吊した鍋を囲んで

二人はどぶろくを汲み交わした


弟の顔は消えた

自在鉤も鍋も消えていた

窓を打つ風もなく

雪は静かに降っていた




2030年 農業の旅→ranking


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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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