あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

栗生楽泉園  竹村 昇さん(1)



冬の坂

踏み出す俺の足

一枚岩のように

凍った坂に響く

肉と骨の

冬の坂

俺の前に立ちはだかる


寒空にさらけだされた坂

無数に重なりあい凍りついた足跡

斜面に添わせてかたむく俺の体に力がはいる

ぎしりと鳴る関節のひびきが坂に伝わる

生きものひとついない寒さの中で俺の呼吸がはずむ


<あくせくと吹きさらしの中を登って来ることはないぜ>

若者の声が突然俺の頭の上で響いた

だまったまま

一足一足に全神経を集め

若者の前を通り抜ける


やがてふり向いて

そこに

遠く揺れている太陽と向い合って

じっと立っている

若者と冬の坂









目玉



この朝

躰中で一番目覚めがおそい目玉を

ぼくはこの朝もこすっていた

この朝に限りこすってもこすっても

こすりつける布団が

日照りの泥沼のようだった

ひと皮むけよとばかりこすりにこすった目玉は

おこりたった炭火に置かれた肉塊のように真黒にくすぶっていた

ぼくは厚い黒い布を凝視しながら

よろめく足で立った


家系をけがす病気と言う

大きな荷を背負って

戦争参加の勤労奉仕の明け暮れ

一度はつかんだ制服をはなしていた

手当りしだいに

ぼくは押入を掻きまわしていた

手さぐりのぼくの手は

ボロ服をつかんでいた

なでるぼくの躰に

ボロ服のさけ目の底に肉体の温感がある

晴眼の時知らなかった

やわらかい肉体の温感

その下を血液がかぎりなく流れていた

家裏の渓流の音が聞えていた


色彩も形もないただ真黒い世界を

逃げ出そうと窓に向けた目玉の先に

晩夏の日を受けた

坂道がかすかに横たわっていた


目玉は

冷めたい黒しゅすに覆われて覚めてこなかった


僕が佇っている現在

遠くの山野を形造って汽車の汽笛が流れる

そこの幹のみんみん蝉の声が

三つの波紋を重ねて広がってゆく


厚い黒い布で

千枚張りに継ぎ張りをした僕の目玉


二十年来

片時も消えなく脳裡に焼きついた

失明のあの恐怖

そして

僕の目玉に熱の通う限り

見え続くであろう

真黒いあの恐怖



2030年 農業の旅→ranking


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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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