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あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

栗生楽泉園  朴 湘錫さん 


病棟雑感


(昨日の続きです)

 午前八時 日勤との交代
 ベッド払いから掃除、治療車のきしむ音、それぞれの任務に分散して、生気をかもし出す病棟の午前。
 電気器具の騒音が止む頃
「どうだい」と
 主治医が入って来た、たったそれだけの声に、ほっと安らぎを覚える。
 愛称髭先生である。面長の輪郭を囲う見事な髭、如何にも人格にふさわしい。
「俺大丈夫かい、先生」
「大丈夫だ、心配ねえよ」
 さらりと言ってのける。山盛りの灰皿を片付けながら、でも吸うなとは言わない。言ってもきくような玉じゃないと思ったのか?
 先生にいま一つ大切なニックネームがある。少しばかり表現は悪いようだが、俺たちは「のんべ先生」とも言っているのだ。
 失礼にも聞こえるが、そうでもない。のんべの中味は濃いのである。
 俺たちの親愛の情が含めてある。医者と患者の壁を感じない。要するに、立場を超越して、俺たちの生活の中に飛び込んでくれる先生とも信じているのだ。
 少し古い話になるが、ある職員が患者の出したお茶をのんでくれた、とのニュースに俺たちは驚いた過去を思いかえす。
 時代も変って、ライへの認識も見直されつつある今日なお、お茶一杯出すことに迷いを感じている俺たち。
 もし、ひざを交えて生の心を語り、酒一杯くみ交わす職員が、又は社会人がいたとすれば、自らの偏見と、コンプレックスにこもりがちな心の扉をひらいてくれることではないだろうか。
 その意味からして、俺たちが生の心をぶっつけ、わがままも言える俺たちの先生に、多分お気に召すまいと思うが、「のんべ」という称号を、心を込めて贈る次第である。


 助けて・・・・・
 看護婦さん助けて・・・・・
 救いを求めているのは一号室の老婆らしい。いま暴漢に襲われているのだ。
 この病室のことを備品室とよんでいる。勿論俺たち仲間の口のわるい誰かである。
 備品室には老婆も含めて、行き場のない何人かの者が収容され、いわゆる彼等は病棟の備品なのである。
 聞き捨てにならない言葉ではあるが、なんてことはない、俺たちが自らを自嘲する言葉なのであるから━━。
 なぜなら、口のわるい彼も、論評を加えているこの俺も、まぎれもない備品の一人なのである。後なき人生を、療養所という名の囲いの中で生き、そして消えていく備品、多少なりと違いがあるとすれば、自力で動き、正常に判断する能力が、まだ残っている、ということにほかならないだろう。


 婦長さん・・・・・
 婦長さん・・・・・
 可愛い叫びは天使の玉子のようだ。
 ウンコよ、Hさんがウンコだらけよ、と、更にそう叫んだ。
 騒ぎはやはり備品室である。
 俺は自分のおむつに手を当ててみた。
 幻想に怯え叫ぶ老婆、何が気に入らんのかわめき散らす者、平和な顔して、汚物と遊ぶHさん。
 彼等の昨日を知る者の誰が、今日の彼等を想像し得たであろうか。
 因果な人生はさておいて、
 因果な役割、と言ってはならないのか、天使の皆さん。

(つづく)


2030年 農業の旅→ranking

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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在66才、農業歴30年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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