あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

北條民雄さん 癩院記録(1)


少し長いので各単元ごと7回ほどに分けて(順不同で)更新します。
北條さんの描写は具体的でわかりやすく、おもしろい。
高浜虚子の来院が描かれているこの単元は2分ほどです。



 病院の中央に大きな礼拝堂がある。そこで毎月死者の慰霊祭が行われる。またそこは、活動小屋になることもあれば音楽会の会場にもなる。何か事件があると院長が患者達に何か説諭する。その時もこのお堂が利用される。所謂名士が参観に来るとここで一席弁じて行く。ちょっと患者会館と呼ぶにはふさわしい所である。
 
 名士たちはよくやって来る。主として宗教家であるが、時には大学教授も来れば大臣も来る。患者達がぞろぞろと集まって来るのを見ると、名士達は誰も同じ恰好に顔をしかめる。驚きと恐れと同情とがごっちゃになった表情で、しかし平然としようとして視線を真直ぐにしている。が、やはり気になるのでちらちらと坊主頭や陥没した鼻を眺めては、また急いで視線を外らせる。
 
 そして演壇に立つと込み上って来る同情の念に、たまらなくなったような声で口を開く。中には一時間も二時間も喋って行く人もあり、またほんの四五分喋って行く人もある。患者達はみな熱心に聴く。そして話が終ると同時に忘れてしまう。しかしほんの四五分しか喋らなかった人の言葉はよく覚えてい、尊敬しているようだ。
 
 高浜虚子が来院されたことがあった。氏は、この院内から出ている俳句雑誌『芽生』の同人達を主に訪問されたのであるが、患者達は殆ど総動員で集まった。氏はゆっくりと、誰にも判っている事を誰にも判るようにほんの五六分間話して帰られた。患者達はあっけないという顔で散ったが、しかしその五六分間の印象は強く心に跡づけられた。そして今もなお時々その時の感銘が語られている。
 
 患者達は決して言葉を聴かない。人間のひびきだけを聴く。これは意識的にそうするのではない。虐げられ、辱しめられた過去に於て体得した本能的な嗅覚がそうさせるのだ。


2030年 農業の旅→ranking



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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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