あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

多摩全生園  国満静志さん(5)



山茶花



雑木林のむこうで陽が落ちかかると

そこらで空気が急に冷たくなる

返らない一日があと僅かで終ろうとしていたとき

それでも支えきれなかったように

山茶花の花がこぼれる


青い生垣に沿って

風がさわさわと吹いてくる

遠い日の記憶を今日よみがえらして

それはふと瞳の深かった色に

触れていたようなのだったがそのとき

ひとの声が静まった家の白い壁に

夕日が薄っすらと消えていた


枯れてゆく草の匂いや

ちらちら炎を上げ始めていた

野火の煙りは

無限の距りにたゆたいながら

何処までも紫の色だ

そうして発酵していた腐葉土の微かな熱にも

みずからを暖められていたように

孤独な日の暮れ

確かめていた愛情


いのち生きてゆく日々

悔いのみの多かった心の海に

ひとしきり こぼれる
はなびら

昨日のようになえられることきりで

返す術のなかった日の

終りに近く

疼くこの悔恨は何であったのだろう

ああ 靄は
めていた地脈の奥に

梢も濡れてくる

故旧の思いだけが今はちぎれちぎれに

鳥のようにとび翅っていた


何もなかった人生は所詮

底の底まで洗って見ることだ

素裸な何も無さでもそれが日々の私の

総和だったら

そんな総和こそが一切の所有であったではないか

秋日

それでも姿のなかった風のように

山茶花が散っていた







国満静志さんの略歴
旧制高等学校卒業後発病、1938年長島愛生園に入所。1941年逃走、放浪ののち、1947年多摩全生園入所。1957年より入退所を繰り返すが、1972年以降は亡くなるまで多摩全生園で過ごした。1987年1月31日、75歳で死去。小説、詩を主に執筆、自伝的作品に「泪橋」(1974~1975年「多摩」連載)。作品集『漂白の日に』(1988 皓星社)


2030年 農業の旅→ranking

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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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