あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

多摩全生園  東條耿一さん(4)



夕雲物語 其の二


 落葉を踏んでふたりは歩みました。やわらかに肩を組合って愉しいのでありました。そうして天の刑罰でこんな病に罹ったのだとは少しも思わないのでありました。二つの魂が歩む度に、落葉が小さな旋風をあげて足下を駆けまわっていました。空は痛いほど青く澄んで、すっかり坊主になった林の向うから犬が啼きました。それは空の中で啼いたように思われるのでありました。
 わう、わう、わう、ばう・・・
 男は口をすぼめて啼真似ながら、林の向うへ挑むのでありました。それは空の青にひびがはいるように思われました。すると、林の向うからは前よりも激しくくってかかるのでありました。それはどうやら空から落ちてくるようでした。
 わう、わう、わう、ばう・・・
 男は面白くなって、負けずに林の向うへ啼き返すのでありました。それはやっぱり空の青にひびが入るようでした。━━あなたお止しなさいよ━━女は微笑みながら、林の向うへ首をかしげ、男の肩をそっとつねりました。男の啼声が早くなると、林の向うでも早くなりました。林の向うから、思い出したように飛んでくると、男の方でも急いでそれに合槌を打ちました。そうして女の間のびた足が、道端の堆肥を丁寧にさらった時、始めて男の啼声が中途でひっ切れました。その煽りで、落葉がながいことふたりの周囲をくるくるくるくる廻っていました。女は美しい盲でありました。つまらなくなってやめたのか、林の向うは静かになって、いつの間にか、ひびのはいった空から、美しい夕雲が覗いているのでありました。




東條耿一さんの略歴
1915年4月7日栃木県生まれ。1933年4月21日、全生病院入院。1942年9月4日死去。文芸活動は詩が中心で、唯一遺された小説は『ハンセン病に咲いた花 戦前編』(2002 皓星社)に収録されている。北條民雄の最も親しい友人であった。




2030年 農業の旅→ranking



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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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