あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

町民大会の開催

加賀田一さん「いつの日にか帰らん」P30~P33抜粋


 鳥取県は私を人権問題の啓発委員にしました。長島まで県の公用車で迎えに来て、県庁で開かれる委員会にも出るようになりました。そしてそこで企画されたシンポジウムやフォーラムに出ました。私はそういう場に出て次のように話しました。

 「ここに集まっておられる方々は人権問題に関心をもっておられて、知識もおありです。強制隔離についても間違っていると考える人が来られているわけです。ですから、ここに来ておられる多くの人たちには話さなくてもいいのだという思いがあります。知識のない人、関心をもったことのない人、それが一般の人たちであって、そういう一般の方たちに、聞いて、わかってもらいたいとつねづね思います」

 私の出身地の用瀬町の人権センターでは、有志の方が私の親族と協議を重ねていました。私の本家を継いでいた従兄弟の娘の加賀田さゆりさんは、大阪へ出たまま行方不明だと聞かされていた私について、高校生のころ祖父がひそかに家人に話しているのを耳にはさんで、事実を知っていたとのことです。

 彼女は「隔離は人の自由を奪う人権侵害であり、病気が治っているのに家族のいる故郷に帰れないというバカなことはない」と思っていたので、予防法廃止を機に是非とも故郷に迎えたいと親族の理解を求めて、一軒一軒を訪ねて賛同を取り付けたうえ、人権啓発の町民大会を提案しました。この提案に池本町長が、「それはそうだ」と賛意を示し、開催が決定したのです。

 2000(平成12)年の3月4日、「近くて遠かった故郷」という演題の町民大会に呼ばれるという形で「晴れて」私は郷里に帰りました。ハンセン病が治った患者がいるといっても、町の人が信じないと困りますから、当時、鳥取赤十字病院内科部長だった徳永進先生にもごいっしょしていただきサポートしてもらいました。

 小さな町ですから、400人収容の町民会館はいっぱいで、ロビーにモニターを置いてそこで聞いておられる人もいたほど盛会でした。正面には「お帰りなさい!加賀田一さん」と大書された横断幕が張ってありました。私たち夫婦は地元の若い人たちによる合唱ミュージカル『時の響きて』に迎えられて入場しました。『時の響きて』はハンセン病を扱った福安和子さんの詩をもとに構成された作品です。

 すると、大きな声で「加賀田一くん!どこへ行っとったんや!」と言って、一人の老人がちょっと不自由な体の婦人(奥さん)に支えられながら出てきました。それが小学校の同級生でした。それまで私はずっと引っ込んでいたわけですから、67年ぶりです。そういうところが郷里ならではのいいところでした。横井庄一さんやら小野田寛郎さんみたいな感じです。同級生は男女共学で56人いましたが、男で郷里に生存していたのはこの友人一人だけで、大半は戦死と聞き複雑な思いに胸が熱くなりました。

 そのあとの徳永先生との対談で、先生は「ハンセン病は今では水虫より早く治る」と話され、会場に大きな笑いを呼んでいました。その徳永先生はまたものすごくたくさんのバラを用意して下さっていました。そして最後に「加賀田一さんの焼香代わりに一本ずつ供えて握手をして別れましょう」という挨拶で大笑いになり、出席者がずーっと並んで、握手をしながらバラを1本ずつもらって、結婚披露宴で新婚夫婦を送り出すときのように会を閉じました。その夜の懇親会では有志の方々とビールを酌み交わすこともできました。

 田舎の山間の町でしたが、人情は厚くてうれしいなとしみじみ思いました。この町民大会で初めて私は自分が故郷に受け入れられたと感じました。人間復帰がなり、私と家内が「再生」したのだと深く実感しました。

 この町民大会の模様をNHKがドキュメンタリー「自分に帰る日」と題して放送しました。しかし、実はこの会場には、私の出身集落からは15、6人しか行っていなかったのです。関心のある民生委員とかお寺の住職とか学校の先生などが多く、部落の普通の人たちは来ていませんでした。私の近隣の人が来ていない。そこで町会議員を務める部落長の山根裕さんが、「これでは啓発にならん。これではいかんので、一回部落の全員集会を公民館で開こう」と言ってくださり実現の運びとなりました。


2030年 農業の旅→ranking
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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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