鋳型の表情
私は癩園の屑屋です
屑は毎日溜ります
拾っても拾っても堆く溜ります
まだ、二年しかならないのに
屑の中から産出た男のように
もう板について、ゴミだらけで
誰が見ても屑屋は私の天職です
ちびた下駄があります
紙屑、野菜屑、ぼろ屑・・・
屑の名の付く一切が
貴重な、私の荷物です
雨が降れば重いです
風が吹けばゴミは余計溜ります
でも、がんばります
屑曳は私の天職なんですから
みんなお出しなさい
ふところの、ポケットの・・・
・・・心のゴミ屑を
汐の香のたかい
朝の磯辺で残らず焼きませう
朝の空気は軽いです
こころが弾みます
朝日が躍ります
轍のレールが光ります
然し
堆いゴミ屑は無表情です
ゴミ屑に対ふ私も無表情です
・・・・・・・・
━━忍従は、永い歳月と共に
悲しみも喜びもない
無表情の鋳型を造って了ったのです
私の、真実の表情は
鋳型の底ふかく、黙っているのです
三十五歳の餓心
醜い故でない
卑屈の故でない
隔絶の故でない
捨られた故でない
不自由の故でもない
━━私の餓心
もう喰物は要らない
着物も要らない
お慰めも要らない
女も要らない
喪った指も、足も要らない
━━私の餓心
短い青春があった
涙もろい母があった
叱らない父があった
訴へる子と、妻があった
━━空白の諦観━━
━━私の餓心
━━溺れ込んだ十五年の私の歴史━━
横柄と遊情と贅沢と
放逸のあけくれ━━
父も、母も、人さまも叱って呉れない
「レプラの座」の孤独━━。
あゝ
いま一度
私は
私を焼爛らす炎の鞭が欲しいのだ。
中園裕さんの略歴
1915年3月20日鹿児島県に生まれる。1942年10月長島愛生園に入所。「作家」「文芸首都」「新日本文学」などに作品を発表。