あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

長島愛生園  近藤宏一さん



点訳書『人間の壁』について


 点字を舌先で読むようになってから私達の生活は変わってきました。躰が不自由なためとすべてを一方的に与えられる療養生活ですから、とかく安易に流れがちになりますが、点字という具体的な行為を通して自分で読み、自分で考え、自分で書き記しながら今では非常に積極的になったのです。ある者は点字聖書の紙面に舌先を触れて、直接神のことばを味わうでしょう。ある者はなえた指先に点筆をしばりつけて闘病の歴史を詩や歌に綴り合わせるでしょう。そこには「自らが燃えなければ何処にも光はない」(明石海人)という言葉のように、どんなに不自由になっても努力によって創造し得るものがあるという大きな喜びと確信が満ち溢れているのであります。

 またこうした喜びの他に更に広い世界が私達を待っていました。それは点訳奉仕者や健康な盲人と文通することです。閉ざされた島の中でとかく見失いがちな社会の動きを捉え、新しい知識を与えられるとともに何よりも嬉しいことは、遠く肉親と別れ孤独におちいりがちな私達の心に人間的な温かい交わりを与えられるということです。盲人会の人名簿をひもといてみると、そうした方々が全国で百名にも達しようとしています。これは私達が期待もしていなかったことです。

 ここに紹介する点訳者もその中のおひとりですが、去る3月26日、朝日新聞夕刊紙上に点訳書『人間の壁』をめぐって詳しく掲載されておりましたので、この際私達の気持ちの一端を申し述べてみたいと思います。

 『人間の壁』は昨年4月頃から奈良女子大点訳クラブを通じて、送られてきていましたが、その後この点訳者が福岡刑務所に服役中のAさんという一死刑囚であることを知り、私達は大きな驚きと感激に胸をふるわせたのであります。その後Aさんは点訳未完成のまま、断頭台に立たれたということを聞き、私達の胸は深い悲しみと、ある何ものかに対する憤りを禁じ得なかったのであります。奈良女子大点訳クラブの松沢先生のお手紙によればAさんは全く前非を悔い、仏に帰依して生れ変わったような姿で死刑台に上ってゆかれたということであります。ところが同刑務所のBさんという死刑囚がこのAさんの遺志をついで『人間の壁』の点訳を続けてくださっているということを聞くに及んで、私達はただことばもなく感激したのであります。新聞の記事を読んでから会員より出した手紙の御返事にBさんは「今までの私の目は一体何を見ていたのでしょう。あなた方のお手紙をよんで私は、人生の何であるかを改めて考え直さなければならないと思います」と記されていました。

 AさんにしてもBさんにしても、その罪状こそ重いものであったと思いますが、一坪半の独房で厳しい寒気を躰中に感じながら、あるいはむせかえるような暑さの中で、何の酬いもないハンセン氏病盲人のために、ひたすら点訳に専念される姿を思い浮べる時、私達は死刑という極刑の冷たさに改めて深い疑問を抱かざるを得ないのであります。死刑という制度があることによって犯罪が実際問題として少なくなるとは考えられませんし、またいかに徹底した裁判であっても誤って判決を下さないとは誰も保証できません。また何よりも恐ろしいことは人間が人間の生命を断ち切るという非人道的な制度そのものであります。罪のむくいは必ずしも死刑でなければならないということもありません。世界の先進国ではすでに死刑を廃止しております。とくにAさんやBさんのように全く生れ変わったと思われる境涯におられる方はある意味では世の中の誰よりも善人であり、聖人であると私には思えるのです。

 点訳書『人間の壁』を手にして今長島の盲人はこうした大きな問題に取り組んでおります。点字はただ読み書きを教えるだけでなく、こんなにも重大な、、そして悲しい課題を提起するとは誰も考えていませんでした。狭い島の中にあって点字の一つ一つの星を数え私達は人生の活路を一層積極的に切り拓いていかねばならないと思います。すでに召されたAさんの冥福を祈るとともに今も私達のために点筆を握っていてくださるBさんの健康をはるかに祈念しながらこの稿をとじます。

(「愛生」1959年9月号)

近藤宏一さん著作「闇を光に」のP87~P89を抜粋させて頂きました。



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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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