あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

長島愛生園  近藤宏一さん



点字楽譜


 点字講習第一期生は十二名、そのうち十名は指先で触読することが出来たが、私を含めて二名は本病独特の知覚麻痺が指先に残っていて触読が出来ず唇と舌先を用いることに挑戦した。

 点字は六つの点から出来ており、それを星と呼ぶ。その星を唇と舌先で触れ続けると、まるでコンクリートの壁をなでるような痛みに、唇が破れ紙面をしばしば血で染めたが、私は止めなかった。自分の力で聖書を読むこと、自分の手で自分の気持ちを表現したいと思う強い心に痛みと苦痛は、祈りに支えられた。

 また、なえた指に点筆を包帯で縛りつけて、一点一点をまさぐりながら打ち続ける事を学んでいった。握り締める点筆も自分のなえた手に合わせて改良した。

 こうしてやっと読み書きのできるようになったのは三か月も過ぎたころであったろうか。森鴎外著「高瀬舟」を読破し得たときには、喜びのあまり我を忘れて胸を熱くするほどであった。

 そんな時、園内で点訳奉仕をしてくださっていた詩友、
志樹逸馬氏の奥様が私の手に『点字楽譜の書き方』という教科書を握らせてくださった。盲人ハーモニカバンド「青い鳥楽団」を結成したことをご存知だったからである。私はそれを、むさぼるように舌先で読みあさった。五線楽譜のすべての記号が点字化されていて、私にとっては思いがけないプレゼントであり、貴重な指導者を得た思いでもあった。

 点字楽譜により、コントラバス・アコーデオン・第一ハーモニカ・第二ハーモニカ・アルトハーモニカなどを用い、足りない時は自分なりの記号を点字で作り三重奏・四重奏の和音でアレンジしたり、編曲や作曲にまで広げて行った。このように点字楽譜を用いるようになってからは楽団活動は急速に進んだ。

 昭和二十八年九月に発足した当初、楽員は十三名、十一名までが視力を犯されているから、晴眼楽団員、弱視楽団員、全盲楽団員などの、三グループに区分し、五線、数字、点字、などを用いて総譜を編み、それぞれに書き写させる作業が、私にとっては、もっとも困難で精力を費やすものであった。

 晴眼楽団員二名は五線楽譜に、弱視楽団員三名は数字楽譜に、全盲楽団員一名は点字楽譜に写し取り、何も出来ない七名の者は結局、私が口伝えに繰り返して暗譜させた。ギターを担当する浅井君の他は、全員指先を犯されているから、楽器は全てハーモニカを用いることとした。

 中には生まれて初めて手にするものもいて、指の無い竹田君は、ハーモニカを両手で抱え込むようにして演奏し、唇の力の弱い三井君は、舌先を用いて息の漏れるのを防ぎ、廃物利用で組み立てたドラムの川崎のおじさんは、かまぼこ板のペダルを踏み続けながら、鍋蓋のシンバルを叩き、ワイヤーブラシを快く弾ませるのだった。

 同じハーモニカを吹くにしても唇や指先に障害を持っているから、その姿はさまざまで、三連符に悩む者、リズムが取れず早く出る者、遅れる者など、それでも楽団員はそれぞれに努力し競争心をあおられ活気のある練習が続いた。

 ハーモニカは複音ハーモニカを用い、古いものを譲り受けた物もあったりして、その音程の崩れたハーモニーは、いかにも初心者を思わせる幼稚な響きを立てていたが、皆の心は少年のように、弾んでやまなかった。一節一節ドレミを暗唱し、時を忘れて楽曲に心を打ち込んで行った。私はすべてのセクションをドレミで皆に伝えた。中には音だけで探ろうとしたものもいたが、それを決して許さず、あくまでも、まずドレミで楽曲を暗唱し、その後にハーモニカを口にすることを許した。園内生活の中で盲人だけが取り残されていたようなこの時代、希望を失っていた皆は、乾ききった心を潤すように励んでいった。

 最初に手がけたのがゴゼック作曲の「ガボット」。原曲はピアノ曲、楽団員は初めての課題曲がクラシックのピアノ曲であることを知って喜んだ。八通りのセクションに編曲し、それぞれに割り当ててハーモニカ合奏にピッタリと適合した楽しい処女作を生み出すことが出来た。


近藤宏一さん著作「闇を光に」のP46~P48を抜粋させて頂きました。


2030年 農業の旅→ranking


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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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