あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

長島愛生園  小泉雅二さん




不在者の詩



霧のある日 渡し船から身軽く ぴょんと らい園の桟橋に飛び移った スラックスにセーターの少女がいた


少女はらいを知りはしなかった


ただ一人で瀬戸内海の 一月の寒風を断ち切った少女


赤いネッカチーフの 十六歳の冒険だ


カモシカのような 少年のような強靭さがあって 明るく ほがらかな笑いが 潮風にのって らい園を包んだ


少女はらいを怖がりはしなかった


それで らい園の若者たちは 少女の周囲に群がった

語り合い 唄った けれど みんな

らいの本当の怖さを知られたくなかった少女もそれは怖かった


少女は唄うように一篇の詩をそらんじた

ぼくは それがぼくの詩であることにおどろいた

少女がそれを誰のものかとたずねたが

みんな知りはしなかった


少女がぼくに会いたいと言うので ぼくは 少女のために大声でぼくをさがしてやった

みんなが ぼくの道化をうれしがり 少女は やっとぼくに気づいてはしゃいだ が

ぼくがじっとみつめたら 恥ずかしそうに きれいな十本の指で顔を覆った


指間から きらりと瞳が覗いていた


ぼくの視線にはらい菌がいた

少女の視線はそれをみた


「わたし志保子です」 と少女は戸惑いの眼を笑ませて会釈した ぼくはぼくの身体の何処かで凍てつく音を聞いていた


少女の会いたいと願っていた たくましい美男の詩人は不在であった


うろたえをかくすように ぼくに笑顔をふるまいながら

少女は 再び ぼくの詩にリズムをつけた。









夢の中にいればよかったのに


らいを知らずにいれば らいの苦しみを知らずにすんだ


らいは酷い

らいは怖い

らいは惨めすぎる

らいは悲しい


らいにそっぽをむけて通り過ぎればよかった


志保子


描きつづけていたロマンへ

突きさされた刃がにくい 志保子

他人の不幸事にかかわらなければ

いつも苦しみを知らずにいられるだろうか

氷のような世のなかを逃げまわってさえいれば幸福だろうか


「志保子に現実を突きつける 残酷な一枚の鏡があなただ」

「あなたにえぐられた心は 堅く閉じて 犯罪者のように惨めだ」

「あなたを慰さめようとした 志保子の優越感がきりきりとうずく」

「あなたは夢のなかにいればよかったのに」

十六歳の気どりを泣き崩した 志保子










鏡のぼくと波飛沫しぶきの志保子


昼間は働く 高校二年生の 志保子



春の 青空に 街路の にせあかしやの白い花びらが 一斉に飛び散ると 宣伝カーの中で みぞおちの深くに 海の白波をかきたてていた


空と 海の 十六歳の青さ


らい園を訪れる志保子


ひと月に一度はやってきた にせあかしやの花が好きだといった 沢山の詩を書いて一冊だけの詩集をだしたいと言い そんな考えは子供かしら・・・と言う


ぼくに追いつき 追い越すのだ! とはしゃぐ


━━ある日 帰りの桟橋に急ぎながら

「わたし患者さんと恋をしてはいけない?」

と つぶやく 視線が答えを待っていた

「らいに苦しんでいるのは人間だよ」

ぼくに

志保子はこっくりとうなずいてみせた


志保子はぼくを鏡にした


らいに育くまれているぼくが鏡だ


鏡をみがいているのはらい菌だ

らいが鏡だ


鏡のまえでうろたえる志保子 鏡をくだけ!


桟橋を離れる船上で 斜陽にはねかえる 波飛沫になっていた

━━志保子









告白する志保子


あなたがゆかいにわらうのに

わたしのわらいはひきつっていました


あなたといるとき

どこの街に居ても

ウインドーがらい院になっていました


その怖えの正体に勝てない

わたしは

あなたについてゆけない

でも ついてゆきたいのです


わたしの心はもうらいを病んでいます


(1965・4・12)


2030年 農業の旅→ranking


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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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