あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

栗生楽泉園  朴湘錫さん 


朴湘錫さんは散文も書かれています。おもしろく、感動的。 


病棟雑感

(3ページです)

 どの位の時間が過ぎたのだろう。
 俺の鼻に黒い紐が通されて、足にも何かロープで繋がれているような気がする。
 高野ひじりの、あの魔性の女が俺を牛に変えてしまったのかと怪しんだ。
 それにしても大きなおむつである。
 いま俺を取り巻いている、この白い妖精たちが、よってたかって俺の下着を剥ぎ取り、干ししいたけのようにしなびた、俺のむすこの、その首根っこを摘み上げ、この無格好なおむつの中へ閉じ込められたのかと思うと、首を縮めたくなる。



 重い瞼をあけて息を整えた。
 俺は生きているのだ
 俺のコンピューターも正常に作動している感じである
 頭がひどく痛い
 目がまわる
 ベッドが揺れている、波にもまれる小舟のように
 えらいことになったと思った
 いま俺がねかされているこの病室、末路の部屋、あるいは三途への渡し場ともささやいているその個室のようである。
 誰がこんなひどいことを言い始めたのか、それは知らないが、いずれはこの部屋のお世話になる運命も知ってはいたが、遂に俺もこの渡し場へやって来たのか、と目を閉じた。
 数日前のこと、
 句友のちえ女が、あの世とやらへ旅立っている。俺のいるこの部屋のこのベッドからである。
 日頃、彼女は善行の人であった。人の面倒をよくみて、世話好きな人であったから、おそらく彼女は地獄ということはないと思う。
 極楽からのやさしい使者に案内され、いま頃は三途の川瀬を渡っているに違いない。
 そこへいくと俺は駄目だろう。
 日頃の信仰からしても極楽は無理だろうし、天国も玄関払いだろうから、いやでも赤鬼や青鬼にむち打たれながら、火の途の地獄道を行くことになるのだろう。
 ちえ女のように、俺ももう少しいい事をしておけば、と、後悔しても遅きに過ぎた感じである。


 オ・・・・・イ・・・・・
 オ・・・・・イ・・・・・
 ナースコールは、俺のいる渡し場の向い側の住人らしい。長く節をつけて、
 舟が出ルヨ・・・・・
 返事が返っていく、ピッタリした調子、彼とナースのみに通じるコミュニケーションでもあるようだ。
 病棟の一日はこれから始まるのだ。
 検温、洗面、汚物の処理から、おむつの取り換え、てきぱきと作業は進んでいく。
 六時四十分頃と思う
 オイチニ、オイチニ
 NHKの朝の体操ではない
 ナースの肩に手をかけ、三人、四人連なって、声を合わせて、オイチニ
 食堂へ向う人間列車である。
 真新しい機関車だけが目立って、いまにも崩壊しそうなこの列車にも、やはり過去はあった筈。その彼等の、かすみゆく脳裡に去来する、それは果たしてなんだろう。

(つづく)



2030年 農業の旅→ranking


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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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