あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

大島青松園  塔和子さん



食べる


子供の頃は待ってくれた

かまどのそばで

針箱のそばで

いろりのそばで

父や母や兄弟が


するめを噛むと

ちょっとしょっぱく ちょっと甘く

その家の匂いがする

そこは

海辺の村だ

いまは誰も待っていてはくれない

父死に母死に

兄弟は巣立って行った

からっぽの家では

終日うす暗い闇が立ちこめ

物音もしないだろう


私はなおも噛む

海辺の村とちょっぴり甘い記憶の残るあの家を

するめはぴちょぴちょ口の中で

音立てながらすこしずつちぎれる

私の記憶もちぎれてはひとつ鮮明に浮き上がり消え

また

別の場所が浮き上がり

ひっそりとした秋の部屋で

ひとり

ぱりっとするめを裂き口に入れる

かくれて餌を食べる猫のように

こっそり

私はこころよい記憶を食べている







口紅


口紅は

金の金具に納っている気取りやさん

手に取ると南天の実のように愛らしく

私の胸底をくすぐる

その華やかな紅と油質の固体をもったおまえは私のすべてを知っている

だからおまえといるとき

こんなに安心していられるのだ


うずうずと胸底にたぎる熱情も

刃物のように青澄んだ理性も

脂肪のように粘り着く執念も


おまえはみんな知っている

とりわけ鏡に対う私のうぬぼれを

許してくれるのはありがたい

だからこうしていると

私は夕べの空のような安心感を呼び戻すことが出来るのだ


乾いた私の病痕をうずめて

唇に艶めくおまえの

その華やかな紅の明るさ

やっぱり許していてくれる

たったひとつの嘆きを

不逞な美への執念を







舞台


夢をくれた方は目覚めもくれた

甘さをくれた方は苦しさもくれた

愛をくれた方は憎悪もくれた

美しさをくれた方は醜さもくれた

生をくれた方は死もくれた

その方はみんなくれた

片方だけにしなかったから

人間はみんな知り

みんな味わい

みんな成すことができた

でも理性という根締で

ちょっぴりしめておいたのはさすがでした

あなたの思いの中で

自由と拘束の間を綱渡りする人間は

怪物にもなれず

天使にもなれず

ふらふらと危うげに

幕の下りるまで

舞台にいます








ある姿勢


風は愛撫を

鳥は言葉をはこんでくれた

人はただ眺めて通った

いつもながめ方はちがっていた

親しみだったり

愛だったり

情けだったり

憎しみだったり

軽蔑だったり

いろいろな人が

いろいろな目でながめて行った

私はいつでも黙って立っている樹だった

立ったまま

眺める人をながめている樹だった

人は樹の前では

いつも眺められていることを忘れていた

樹になっていると

何でもよく見えた

樹の前だと人はありのままの姿を見せたから


雨が降れば雨に降られ

風が吹けば風に吹かれるまま

私は黙って立っている樹だった

そして

誰も

私が樹になっていることを

さして気にもとめなかった



2030年 農業の旅→ranking


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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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