あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

栗生楽泉園  桜井哲夫さん



天の職

お握りとのし烏賊と林檎を包んだ唐草模様の紺風呂敷を

しっかりと首に結んでくれた
 
親父は拳で涙を拭い低い声で話してくれた

らいは親が望んだ病でもなく

お前が頼んだ病気でもない

らいは天が与えたお前の職だ

長い長い天の職を俺は率直に務めてきた

呪いながら厭いながらの長い職

今朝も雪の坂道を務めのために登りつづける

終わりの日の喜びのために


(詩集「津軽の子守唄」所収)





かすみ草

雪の夜の病室

消灯後の瞬間の

静寂を破り

ドアをノックして入ってきたのは

単身赴任の事務職員さん


起きているかね

町の酒場で飲んでいたら

酒場の女が

詩集『津軽の子守唄』を読んで

感動したと言って

かすみ草の花束を頼んだのだと言う

広げた胸の中に花束を抱かせて

職員さんは雪の中を帰って行った


顔をうずめた唇に

花びらの小さな震えがあった


花束を贈った酒場の女に

再び会えなかったと

職員さんは伝えてくれた

名も告げぬ湯の町の酒場の女の痛みが

いつまでも小さく唇に残った







榛名グラス


真昼のほてりを残した病室

友よ七月十日は俺の誕生日そして君の誕生日

門灯の光を透かして国立療養所栗生園の表札を読んだときも

空腹のあまり農園の南瓜を盗んで食べた夜にも君は俺と共にあった

破れたパンツの繕いを

汚れたシャツの洗濯を

十七歳の俺に教えたのも友よ君だ

盲人将棋を指しアマチュア四段の免状を将棋連盟から贈られたときも

一番大きな拍手を送ってくれたのも君だ

第二詩集『ぎんよう』出版会の日も

花束を贈る西毛文学の詩友飯島豊子さんの眼鏡の奥の優しい瞳を

頬に浮かべた微笑みを俺の耳元で囁いたのも君だ

その日詩友の新井美代子さんから贈られた榛名グラスに

看護婦は琥珀の液体を満たし二個の氷片を浮かべてくれた

友よ榛名グラスを上げてくれ

二人の誕生日

上げた榛名グラスに療養所で送った年輪が輝いている

友よ 友よ 俺の友よ

友よ 君の名は癩



桜井哲夫(長峰利造)さんの略歴
1924年7月10日青森県北津軽群生まれ。尋常高等小学校高等科卒業。1936年発病。1941年10月8日栗生楽泉園入所。1953年失明。詩集に『津軽の子守唄』(1988年)、『ぎんよう』(1991年)、『無窮花抄』(1994年)、『タイの喋々』(2000年)、『鵲の家』(2002年)がある。小説集『盲目の王将物語』(1996年)以上すべて土曜美術社出版販売。


2030年 農業の旅→ranking



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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在64才、農業歴28年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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