惜春
雪につまずき
風にむせびながら
ようよう訪れてくれたのに
私は悲しいことばかり言って
花束をもってきてくれても
小鳥の歌を聞かせてくれても
拗ねてばかりいた
それでもおまえは
いつもやさしい瞳で
みつめていてくれた
今度おまえが訪ねてくれるときは
心から迎えるようになりたい
あんなに待ち遠しかったのに
もう行ってしまおうとしている
春よ
流星
手が萎えてしまった時・・・・・・
まだ足があると言われ
足が立てなくなった時・・・・・・
まだ目があるんだと思った
だがその目も・・・・・・
右は日曜になってしまい
左は半どんになってしまった
達磨の様な体に
のしかかる闇から
這い上ろうとしてすがるものは
みんな藁ばかりだ
開眼手術成功
そんな喜びも
山の向こうのことでしかない
ああ私は一体なにを希望に
生きていけばよいのか
・・・・・・・・・・・
この瞬間にも
どこかの空を
星が流れている様な
夜だ
蜷川ひさしさんの略歴
1925年大阪府生まれ。1941年邑久光明園入所。1970年死去。