此の部屋にひとり乱れて祷りにきけふ妻とある幸思ひ沁む
妻を率て
生き生きと妻と二人の老いたらば帰らむ
妻と妹が吾の両手を縋るがに握りしめをれば生きたし今朝は
寝台の下に
健けく睦みたりしは十月ばかりか妻よ癒えたし我すみやかに
伊藤 保さんの略歴
大正2年大分県山国町生まれ。昭和8年菊池恵楓園入園。「檜の影」、昭和8年「アララギ」入会。昭和16年結婚。「短歌研究」誌上にしばしば秀作を発表。『昭和百人集』に登載される。昭和38年没。『檜の蔭の聖父』(昭和10年)『菴羅樹』(昭和26年)『仰日』(昭和26年)『陸の中の島』(1956年)『海雪』(昭和35年)『三つの門』(昭和45年)『白き檜の山』(昭和33年)『定本伊藤保全歌集』(昭和39年)『ハンセン療養所歌人全集』(昭和63年)