晩秋。1年で最もいい季節だが、景色どころか気持ちは電柵の方だけに向いている。
明日は備前市八塔寺から1時間ほどかけて、Nさんが電柵を張りに来てくれる。
Nさんにとっては朝飯前かもしれないが、自分は明日のために、土曜日と今日の出荷は休み、この3日間、電柵いっぽんに集中してきた。
それは自分の最も苦手とすることであり、いったん張ってもらうと、容易に動かしたりすることができず、その場に固定してしまうから。
だから、張ると決めた場所は何回も、何十回も歩いて、どこに、どう張ってもらうのが一番いいか、この10日間ほど考え続けてきた。
電柵を張ってまた害獣に入られたら、さらに身体にこたえる。それでも農業は止めるわけにはいかないので、どんなことがあっても侵入させることはできない。
3年前まで、害獣は他人事だった。
3年前からサツマイモだけ防御するようになったが、サツマイモだけならまだ楽だった。
今年の10月7日の台風の夜から、害獣との闘いは明らかに第2ステージに入った。
いったい何頭が集団で来たのだろうと思えるひどさだった。
鳥小屋の下までの35アールほどを電柵で囲うことにした。
(1)門が2箇所(公道なので門にしてもらう)
(2)出入口が1箇所
(3)周囲は300メートル×4段=1キロ200メートル
これからは絶えず、頭や気持ちが電柵に向くだろう。夕方帰る時、一回りするのが日課になるかもしれない。
新たな電柵への出費が10万円余りは仕方がないとして、電柵の下の草刈や見回りに多大な時間を費やしてはいけない。場合によっては電柵の下だけ、除草剤も視野に入れている。
Nさんが、電柵は1日で張れるだろうと言う。自分は電柵を張る準備に今日まで膨大なエネルギーを費やしてきた。
電柵など朝飯前、入られたらその場所を補強すればよい、設置場所もころころ変えてみる、こんなことによだたない(時間はかからない)、そういう能力の持ち主でないと、これからの農業は難しいかもしれない。
電柵に精通している人はまだ少ない。今までイノシシやシカに何度も痛い目にあってきたNさんしか、電柵を頼める人は思い浮かばなかった。