眼の見えぬ君がいちはやく聞きとめしつばめのこゑに窓を開きぬ
盲人の隣りに目明きを間配りて月見の宴の卓を囲みぬ
矯められしかたち寂しき盆栽のひとつひとつを観て疲れたり
誕生日を祝ひて君の贈りくれし小包訃報のあとに届きぬ
病みたゆむ口唇なれば許されよ君の手紙によだれこぼしつ
足首を挫きても痛まぬ痲痺の深さ痛みなき痛みを言ひて嘆かふ
死にてほどなき隣室に人の住み何事もなかりしごとく日の過ぐ
わが内の内なる孤独嗅ぎつけて寄りくるや秋の壁のかまきり
手に足に後遺症なければ胸張りてらいは癒えしと叫ばんものを
慰むる言葉を持てどつづまりは言葉にすぎず思ひためらふ
補強具を着け終へし足とんと踏み調子確かむひと日の始め
終日を故郷に過ごし帰りきて聞く三人の病友の死を
我が言える左は君にとりて右ま探れる手が湯呑ころがしぬ
無汗症のわが体内にこもる熱口あけて吐く暑き真昼を
迫害に傷つき保護にも傷つきたるらいの歴史の終末近し
らいを病む無念の一
政石 蒙さんの過去記事