かくのごと崩るる病ひいづこより吾に入りしと思ふことあり
苦しみとともに享けとるしあはせを知りそめし吾が四十六年
癩園に二人の夫に副ふことも父と思ふも吾の身のうへ
嗅覚を失ひにけるわが日日よ倖ひとつ去りたる如し
かがみゐて右足はやくしびれくる右半身に吾が病重し
五官失せて尚ながきいのち残らむかその姿や今思ひ及ばず
匂ひなく食ふ
逢ひに来てことば尠き長男が大き安堵を父にのこしつ
たまのをの命をしぼり今一度癒えたくありけり老い夫のために
死にちかくありし一日二日の日吾も友だちも夜も昼もなし
遠くより吾をいたはり薔薇の花を賜はりにけり生きよと言ひて
苦しみのきはみにありてよき友のなかに護らるる倖を思へり
告げやらむ身寄りの一人なきわれに遠く駈けつけてくるるこの友
ただひとつ生きねばならぬ希ひあり苦しみを越えし今朝の光に
わが思ひ知り給ふ主よこのたびの篤き病を癒やし給へかし
あかつきの光が窓にさし来れば苦しみ越えしひとひのいのち
苦しみのきはまるときにしあはせのきはまるらしもかたじけなけれ
雑念はうかばずなりてひたすらに生きむと思ふひとりの為に
津田治子さんの絶唱が千葉修さんの絶唱とオーバーラップした