病床で
うかつに 病むことは
ゆるされぬ
まして 病んで 死ぬなんて
平和すぎて
ボクの性には あわない
だのに ライを
八つの時から 病んでいる
ボクの朝は またしても
夜から 取り残され 充血
直立歩行への 焦燥にかられ
なお畸形を ふかめる 風景の中
ボクはようやく わが体臭に めざめる
オヤジよ! 思わず 呼び
息子の位置は するどく
えぐられる━━オフクロはライに死んだ
わが体臭を かぐ
病床に あぐらをかいて
胸元を はだけて
その痛み かなしみを かみしめ
肚いっぱい 体臭を かぐ
すると ボクの 体の中に
重い手ごたえ 確かにあって
しかもそれ 病んで とげとげしく
痩せ細った ボクの神経を あばき
さらに荒々しく 心 踏みにじり
むかつくほど 熱っぽく
ボクを おそう
たわけが
いつまで 病む気か!
じんと こみあげ
ボクを搏つ 体臭━━
オヤジは すでに年老いて
もうじき 死ぬ
働いて 働きぬいて
報われもせず ついに骨枯れて
ある日
オヤジは 死ぬ
しかし オヤジ!
この まっぴるま
ボクの病室の 窓にも
すごく青い 八月の 空
ライの 汗と垢と 屈辱の
傷のにおいに まみれてなお
ベッドの上の 息子に伝わる
あなたの 体臭が ある
その体臭を かぐ
いかにも 病んで
死んでは ならぬ