指
朝ごと 怖れなしに
掌をみることができるか
手をのばした新聞紙のうえで
不意に水ぶくれしている指
生きのびたいばっかりに 肉脱して
ぎりぎりに痩せている指
掌に巻かれた繃帯はすぐ汚れる
怠惰な心のように繃帯の中にくるまりたい指
繃帯の中には安堵がある
朝ごと 繃帯は
すばやくとり換えてもらえるから
怖れ
というほどの存在であることもなく
指はきのうと同じ形で
巻き換えられた繃帯の中でゆがんでいる
義足の唄
おれには頭も眼もない
神様は自分に似せて
人間をおつくりになった
人間は自分の切りとられた部分に似せて
おれをつくった
追われてきたという山河
晴れた海のむこうをみとれさせることもある
人間のもつ過去は
おれにはない
人間はもしかしたら神様に
似ているところがあるのかもしれないが
おれは人間の足に似ていると
思ったことはない
人間は自分をつくってくれたもののことを
忘れて生きていけるが
おれはおれをつくったものを離れて
生きていけない
人間にとっておれは
やむをえない部分であるかもしれないが
おれにとっては
すべてだ
だから
二十年同じ土しか踏まない主人に耐えている
ぎっこ
ぎっこ
しまだひとし(島田等)さんの略歴)
1926年5月11日、三重県に生まれる。県立中学中退。1947年9月9日、長島愛生園入所。「らい」詩人集団代表。1995年10月20日死去。評論集『病棄て』(1985 ゆみる出版)、詩集『返礼』(1992 私家版)、『次の冬』(1994 論楽社)、遺稿集『花』(1996 手帳舎)。編集の仕事に『隔絶の里程 長島愛生園入園者50年史』(1982 日本文教出版)、『全患協斗争史』(森田竹次著 1987 私家版)、『死にゆく日にそなえて』(森田竹次著 1978 私家版)などがある。