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あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

栗生楽泉園  谺雄二さん



ユメとボク


朝がた

目が覚めると

布団の裾にうずくまって

ユメが寝息もたてずに眠っていた

ついいましがた帰ったばかりの様子で

疲労の色濃くうす汚れていた

やつはいつもこうだ

ボクが眠っている間にどこへともなく抜け出て行って

ボクが目覚める時刻に

ぐったりと疲れきって帰ってくる

そして日がな一日

昏々と眠る


『鬼の顔』の頃

ユメは春の<六合村の街道を

片眼つぶって

ビッコひきひき

えっちらほっちら>この尾根にやって来て

長旅を終えたかのように

ボクと暮しはじめた

━━あれからもう十五年

べつにどこといってかけ廻ることなく

ユメ凍らすこの尾根の真冬には

氷柱となって

じっと春を待った


ところがどうだ

ある日突然

ユメはボクをふりむかなくなった

此処はやっぱりふるさとじゃないという

ふるさとじゃないからふるさとを

いまから探しに行くという

あいにく外はどしゃぶりの雨だったのに

ユメは傘もささず

裸足のままビッコひきひき出て行った

行くあてもないくせに

頑なに片眼つぶって


翌朝ボクが重い眠りから目覚めてみると

ずぶ濡れのユメが帰って来ていて

ぶるぶる震えながら眠っていた

それ以来ボクが起きている間はユメが眠り


ボクが眠りにつくとこんどはユメが

夜な夜なふるさとを求めて

この尾根からの彷徨をくりかえす

そんなユメとボクとの

全く奇妙でちぐはぐな関係が

もうずいぶん前から続いているのだ

だから片眼でビッコで

ライのふるさとを

あてどなく探し求めているボクのユメを

不眠の夜に

あなたもどこかで見かけませんか?

(『鬼の顔』=谺雄二詩集・1962年、昭森社刊)









夜はまだ明けぬ


ライを病んだその日いらい

ボクが生まれ育った筈の場所とボクの名前は

地図や家系図からかき消されて

まったくあとかたもない

しかし夢のおくに幽かに残る

おぼろげな記憶をたどれば

そこには石段のある草立ちの堤防

堤防の上はずーっとどこまでもつづく遠い道

川にはポンポン船の白い航跡

その堤防下の小さなお宮の境内で

いっしょに遊んだ近所の子は

たしか男の子がカズオ

女の子はヨシエと呼んだ

そしてボクの名は?


かならず記憶はここでとぎれ

黒い断面があらわれる

ハハはライを病んで死んだが

はたしてハハにふるさとはあったのだろうか

この尾根に今夜も雪は降りしきり

療舎の灯々は地獄谷への暗い傾斜にあえぐ

ハハもまた墓には眠らず

雪降るどこかの街をさまよっていないか


  ━━あるいは時に

  死んだハハの愛撫の手に抱かれている

  いとしい息子よ

  わたしはおまえを離しはしない!

  けれどハハよ

  その手の中であなたの息子は哭く

  もうたくさんです

  これ以上ボクを愛さないでください!

  息子はついにハハを拒絶しえたか

  拒絶することで回復しえたか

  ライの死の揺籃はゆれて━━


みるがいい

いまも祖国を犯す意図と

そこに繋がる徒者の眼とが

ライ病む者にふるさとを失わさせ

それらはまた自らの闇をふかめることで

ライ病む者の本名をも削りとらせてやまぬ

こんにち医学はライを治癒させている

だのになぜボクたちは

日本山脈の奥処 この熊笹の尾根に

ひっそりと身をひそめねばならぬのか

まして死してなお行方をしらず

いつの日鎮まるあてもなく

さまよい傷みつづける

ライの死たちよ!


夜はまだ明けぬ

ああ 夜はまだ明けぬ


2030年 農業の旅→ranking


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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在67才、農業歴31年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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