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あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

栗生楽泉園  越 一人さん



雨よ どしゃぶりに降れ


ぼくは静かに降る雨を見ている

誰もいない部屋

ガラス窓に息を吹きかけ

指で こすったりする

白根の噴煙は雨雲の中に

一筋 しろく流れている


雨が こんなにも

静かに降ることができるのに

ふるさとを離れる真夜中の駅では

桶からあふれるほど激しく降った

汽車の窓もあけられず

ぼくは

母の手を確かめることができなかった

車窓にぶつかる横なぐりの雨が

灯火管制の暗がりに佇む母を矢のような光りで包んでいた


雨よ 静かに降るたびに

やっと落着いた部屋の窓によりかかる

帰れない望郷の想いに沁みこんで

雨よ 降れ

ライの子のために

考える余裕をあたえないで

どしゃぶりに

何もかも押し流して 降れ







春の陽を浴びて


芝生に足をなげだし

まる顔の

どんぐり眼をぼくに向け

おもいきり跳ねてみたいという

君の

関節という関節は包帯で覆われていた


 あの山頂まで何時間かかるだろうか

 山頂には

 海のにおいがして

 海鳥は鴉と郭公の鳴き声を混ぜあわせた声で

 海をさわがせている

そう言って笑う君は海をただ感じるだけだという

海をまだ一度も見たことがないという


肘をさすり

膝をこする

春の陽に躰をゆする君

ぼくは病気とは関わりのないところで

ぼくの

一度だけの

海水浴の話をしていた







それは伝説ではないという


寝苦しい夏の夜半

躰中が熱く

おれは圧しつぶされていく首筋をかきむしっていた

そのことはおぼえていた

おれはどうしていたのか

時間が

おれに戻ってきたとき

喉仏の下に

小さい穴があけられていた


気管切開

「喉切り三年」だ

三年しか生きられない

それは伝説ではないという

ライの

最後の呼吸の窓

ふれると

いつも冷たい管一本


春がきても

夏がやってきても

嵌めこまれた管にしめっぽい空気が送りこまれ

息づくたびに

おれは

ヒーヒー と

生命の謎ときに

喉の奥の方で

しゃがれ声に力んでいた


(註=昭和23年夏手術。3年後その穴をふさぐことができた。)
 

越 一人さんの略歴
新潟県出身。1945年6月栗生楽泉園入所。詩集に『雪の音』(1957 私家版)、『違い鷹羽』(1985 創樹社)、『白い休息』(1994 土曜美術社出版販売)。



越 一人さんの過去記事


2030年 農業の旅→ranking


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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在66才、農業歴30年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

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