FC2ブログ

あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

栗生楽泉園  韓 億洙さん



かささぎ(一)


母に手を引かれて

日本への旅立ちの朝

いつも庭先に訪れる

あの気ぐらいの高いかささぎが

見送りに来てくれた


つぶらな瞳でわたしを見詰め

遊びに行くのか? と

小首をかしげていた


こよなくわたしを慈しんでくれた

一人身の伯母は

「わたしだけ置いてなぜ行くのか」と

天を仰いで悲しんだ

七ツの夏の終り頃だった


石ころだらけの畑の真中に

盆石のように佇む大きな岩があった

傍にわたしは一人立ちつくしていた

何故だったのか今も思い出せない

ふるさとを旅立つ侘しさの故か

二つ年上の兄を失った悲しみの故か


岩から沁み出るように

虫の声が絶えまなく聞こえていた

耳鳴りのように今も聞こえている


北国の小さな町で

物ごころつき初めて見える父の顔

「父さんだよ 呼んでごらん」と

母にせかされて

どう呼べばよいかも判らず

思わず「アベ」(おやじ)と出てしまった


母はひどく戸惑い

父は「そうか そうか」と頷きながら

やさしく抱きしめてくれた

痛かったあの時の髭の感触が

頬に甦る


いつしか六十有余年の歳月が過ぎ

「人生七十古来稀なり」となってしまった

何ものかの加護と

人々のぬくもりを享受て

よくぞ命長らえたものである

わたしの一番の倖せは

還るふるさとのあること

肉親もさることながら

あの日のかささぎや虫たちも

きっと私の還りを

待っているにちがいない


そのことだけは信じよう









祖のおわします先山

父や母も共に眠る

まろやかに盛り上げられた緑の墓前

時の物や韓酒など供え

芝生にひざまずき

祀りの二度の拝を捧げる


と、どこからか

一羽の蝶ひらひらと

白衣の喪服の舞

しばしあたりを乱舞して

高く高く ひらひらと

碧空の彼方に溶け込むように

消えて行った


人の魂は蝶に生まれ変わると

遠い幼い日

寝物語に父が噺した


二十年前

ふるさとを訪ねた初夏の

あの日の蝶は

七歳で逝ってしまった兄の

魂の影だったのか


行きたい

帰りたい

あの日のように

蝶の舞うふるさとに

(※先山=先祖の墓のある小高い山)










韓国江原道江陵の海岸で

潜水艦が座礁した

乗組員の多くは自決したり

山中をけもののように追われ射殺されたという

正気の沙汰とは思えない

愚かなことをして見せるものだ


お題目のように

統一とか民族の大和合などと唱えてはいるが

心にもない空言のようである


血筋も言葉も同じなのに

憎しみあうその正体はなんなのか

あらゆる国民は

相応の政治しか持てないという

北も南もお里が知れるということか


無垢な若者たちの鮮血で

ふるさとの山河を紅いに彩れば

無窮花が咲くとでも思っているのか

平和なふるさとの花

トラジや無窮花は

月の出る夜やさしく開く花なのに


庭先にかささぎが来て啼くふるさとには

夢の木でも育てるように

息子たちに愛を注いだオモニがいるはず

オモニたちの心の襞に

奥深く秘むものは

帰らぬ吾子に寄せる深い恨


恨 それはうらみではない

やりば無き悲しみと

叶うはずない夢とは知りながら

見果てぬ夢に憧れる情念


夏が過ぎ秋が訪れ

ふるさとの空は

地上のおろかな出来事も

そしらぬげに

どこまでも碧く深く

平然


(※1 無窮花=ムクゲ)
(※2 トラジ=桔梗)
(※3 オモニ=母)









かささぎ(二)


遠い遠いそのむかし

かささぎは

めぐり逢うふたりのために

その翼をひろげて

天の川に橋を架けたという


やんちゃ坊主のように

カチカチ カチカチと

かささぎの鳴く日は

慶いことがあり

珍しい客が訪れるともいう

夢をはぐくみ

倖せをもたらす鳥でもある


かささぎは

朝鮮原産のカラス科の鳥で

カチカチと啼くので

カチガラスとも呼ぶ


文禄、慶長の役の頃

数多の陶工たちと共に

北九州に奉ぜられ

四百年を経た今も

かたくなにまで節を曲げないで

関門海峡をすら渡ろうとせず

沈壽官と共に生きる


アメリカの国鳥は白頭鷲

日本は雉

わたしの国は

カササギが一番相応しいと思うが・・・


まっすぐ伸びたポプラの木の

風にゆらく梢の枝先で

虚空をみつめながら

かささぎは

遥かな昔

銀河の涯てに架けた橋を

思い出している


むろん 北と南の架橋のことも 


(※沈壽官 李朝期の陶芸家。その子孫は、今も沈壽官を名乗り、九州に在住)


韓 億洙(岡一郎)さんの略歴
1927年5月1日韓国慶尚北道に生まれる。入湯治療のため草津に来たが、ハンセン病とわかり1948年6月24日栗生楽泉園に収容された。詩集『恨』(2002 土曜美術社出版販売)

2030年 農業の旅→ranking
このページのトップへ

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在66才、農業歴30年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp


セット野菜のワンパック宅配 みずた観光農園

最新記事

最新コメント

カテゴリ

カウンター

QRコード

QR

検索フォーム

月別アーカイブ