長き夜や書にふるる吾に
いただきし足袋膝にのせ足が欲し
浴衣着て受洗の式に背負はれゆく
爪切りに廻る看護婦春日和
猫抱いて年賀に廻る癩夫婦
日の当る縁へひろがる初句会
秋風や口もて開く薬包紙
梅の香に行き当りけり探り杖
顔出して蓑虫風を伺へり
白粥に割って貰ひぬ寒卵
門火焚く闇より亡母来給へり
車椅子寄せ合ひ憩ふ花の下
補聴器に二月の雲雀とらへけり
岡村春草さんの略歴
星塚敬愛園 療養生活の中で盲目の身となり、失意のどん底にあった昭和26、7年頃、園職員らが芭蕉の『奥の細道』を朗読してくれたのを機に俳句の道へ。鹿屋星塚敬愛園の機関誌「姶良野」、近藤忠主宰「雲海」、菊池恵楓園発行「草の花」へ投句。敬虔なカトリック信者。昭和52年から重病棟入りを繰り返すが、昭和54年「自分の生命の分身である句」(岡村)をまとめ『彌撒旦暮』を出版。他に合同句集『麦畑』(昭和36年)。