悼 藤本松夫氏
この夜更け鳴きつつ過ぐるごゐさぎの声に思ほゆ獄中の君が十年
カナリヤの死にて残りし餌さへも包み遺して死刑を受けぬ
わが骨は持ち帰らぬがよかるべしと言ふをわが聞くわが妻子より
遠く来し友に己が身の苦しきを忘れはしゃぐ治子あはれ
苦しみの安らぎ来しか夜の更けに歌のメモ請う君にちかよる
岐阜県に就職決まりし二女芙美子髪ふさふさと櫛あててをり
盲学校の教程終り就職先にいそいそとわが娘は発ちゆきにけり
七日の月あかく西の空にあり坐り込み解けて人ら散りゆく
裏山に篁そよぐ音のして若き津田治子在りし回春病院跡