何するとなくかさねゆくわが日日に雛の燕のこゑふとくなる
われよりも自由をもてる気楽さか妻はよく眠りよく肥りゐる
病む者の泪を知れる磯の松影ふかくして人を寄らしむ
目に光かへらぬ運命うけいれて生きむ闇より
今をある視力に妻はたのしめる顔するばかりテレビに寄りて
胸に一つ解けぬ思ひをもつ今日の海はさびしき音して昏れぬ
秋の日を弾けるわれの手の内の栗の胚芽のたもてる未来
善人も悪人もなきここ浄土一山うづめて墓立ち並ぶ
一体となりて創りし患者組織生活ややよくなりきて乱る
卒然と逝きたる君の葬り処の木草鳴らして雨さそふ風