手は汚れていた
けれど
水は
━━澄みきった深さ
しびれるほどの
生命の波紋で美しかった
水は天に投げ、地に叩きつけても砕けなかった
光を透かし
緑を匂わせていた
どこからきて どこへゆくのか
けれど
この胸の渇きのほど
水は生れ
無限に ほほえむかのように流れていた
秋の小川
小川の水は
なぜか 哀しいほど
わたしの手にしみる
おまえは青空を透かして流れるからなのか
固い小石に研かれるからなのか
物象のかげ映ろうままに
天地のひかりには揺れるがままに
せんせんと砕け
歌って生きる
秋の小川よ
冷たさに
おのずから澄むは水のこころ
(1949・秋)
曲った手で
曲った手で 水をすくう
こぼれても こぼれても
みたされる水の
はげしさに
いつも なみなみと
生命の水は手の中にある
指は曲っていても
天をさすには少しの不自由も感じない
癩者
誰が 俺に怪異の面を烙印したのだ
碧天の風を吸って 腐臭を吐き
黄金の実を喰って
膿汁の足跡を踏む
よろめき まろび
指を失った掌にも
土塊は砕け
何故 花は開くか
捨てられた水を呑んで生き
そそがれる光に
描くは 紫の浮腫 斑紋
己を憎み
人を恋い
闇の彼方に
天を憧れる 無性の渇き
ああ 非情の石よ
己が掌を微塵に砕け
悪魔よ ほくそえめ
除けものにされれば されるほど
自らを知る性
俺は 誰に
生きる表情を向けたらいいのだ
水を掬む女
広い地上 貴方はどうして
私達病み汚れている者の集まる小さな島を
たった一つの職場と選んだのですか
黒く澄んだ瞳を持つ若い貴方に
純白の服を着せたのは 誰なのですか
この生命に掬まれる水の 今日も━━
冷たいかおりを親しみ
うちに・・・赤い血潮となる不思議をいぶかしみながら
あゝ貴方は何処から来た
この胸に顫える手を
じっと 私はみつめるばかりです
(1951年)