足音
━━若いナースの成長を喜びながら
卓上の花瓶の花のように
あなたは
すっくと私の前に立っていた
南の陽を受けた病室
旋回する時間の中で彫り深き映像がある
清潔な白衣は私の眼に痛い朝
帽章のローマ字は若い心の張り
ああ あの日
関心と好奇と未知への瞳をすまし
あなたは白い繃帯を私の手に巻き
下垂した足に松葉杖を持たしてくれた
あれから一年霜雪の過程をふみ越え
新らしい姿勢で私の前に立つ
体温計を脇にはさませ
ストップウオッチの秒針を巧みにとらえ
脈を計りながら次のベッドに移って行く
快活な足音は確信にみちあふれ
コツコツと
静かな病室に遠のきながら伝わる
桟橋
霜雪の過程を閉じている桟橋
風がはたはたと海をめくる音に
季節のない潮騒は
島にやむものの胸をたたき
橋脚はきりきりゆさぶられた
きしみ音に釘づけされる
千数百の自由は
潮さびた影となり
やむものの海へむかう音を
たばねせきとめていた
時にさからうこともなく
内海の海面に姿をうつした
新しい沈黙は
らいの島の縮図となって
弁証の輪をきょうもひろげている