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あめんぼ通信(農家の夕飯)

春夏秋冬の野菜やハーブの生育状況や出荷方法、そして、農業をしながら感じたことなどを書いていきたいと思います。

大島青松園  塔 和子さん(18)

 



人が死んだら

なぜと問うのに

生きていることを

なぜ生きているのかと問わないのだろう

人が泣いたら

なぜと問うのに

笑ったら

なぜ笑ったことを問わないのだろう

生よりも不幸な死はあるか

死よりも不幸な生はあるか

泣くよりもつらい

笑いはないか

そんな笑いよりも楽な涙はないか

人が問うのは

平均的なことがらを越え得ない

人が見過ごすのは

見なれた風景にあてはまるとき

裏返しになった一枚の画は

いつまでも

裏返しになったまま

誰も気付かずに通り過ぎる

そして

人はいつも

傍らに

気付かずに通り過ぎた

何枚かの画をもっていて

埋葬をすませた後などに

ふっと

気付いて

取り出して見たりする










生鮮食料品


剽軽な蛙から蛇

獰猛な鰐

執念のとかげまで

首を切られ

贓物を抜かれ

くるりと皮をはがれた姿のまま

なおその肉をくねらせながら

生鮮食料品として竿につり下げられている

熱帯の街の露店


時が停止したように

皮をはがれつづける爬虫類の

原始の世界への異様な昂奮の中で

あの沼の思い出のつまった目も

密林の焼けつく陽も

彼等の中の遠い王国

それは

首のない爬虫類にはもうない

吊り下げられた

何本かの

白い肉の間から

買物籠を下げた

女のブラウスが

あざやかな原色を

ちらつかせているだけだ




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大島青松園  塔 和子さん(7)

 

いちじく


なまりのように重い暑さを扇風機がかき廻している

厚ぼったく茂った木々の間で

蝉がじんじん鳴いている

ひまわりはこくびをかしげたままいくぶんしおれている

夏は日々うれて

私は思い出の夏をその夏の上に重ねる

小川のそばのいちじくを手にいっぱい

もぎとって食べた夏

海でしぶきを上げながら泳いだ夏

少女の日の健康な夏は光り

そしていまそのさまざまな

思い出の夏を見ている

畳の上に

どさりと体をよこたえたまま











今はまだ


もうすこし年がいったら

この未完の物体が仕上がるのかも知れない

あるいは

夕焼の中の芦原のようになるのかもしれない

仕上がってほっとしたいとも思うし

ひっそりと枯れていたいとも希う

またしばらくは

静かにほほ笑んでいるような

薔薇色の夕焼雲のように在りたい

ああ

それから

安らかに眠りたい


もう少し年がいったら

そして今はまだ

なまぐさいものが好きだ

欲望や希望にゆれる波でおぼれそうな海

自らを引き裂きひきさき糧とする日常

愛や裏切りや

自負や喪失を重く沈めて

発酵している

この狂気のような現実が

なぜともなく好きなのだ



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大島青松園  塔 和子さん(6)

 

食欲

それは

何本の植物の

何匹の獣の

何尾の魚の命の

胃袋は死体埋葬所である

しかし

この厳粛な葬儀は

私の生を支える

生命の始発点で

美しく料理された野菜や肉に箸をつけるとき

私は

ただおいしいと思っているだけ

食欲という愛しくも楽しい欲に幻惑されて

いけにえの痛みに思いを至らすこともない

これは

何物が私に与えた麻薬だろう

そして

生きている限り

私は毎日

自分の生への祝福のうちに

葬儀をすます

血のしたたる肉と

光をはじく野菜を

口の端につけながら











生きて


浮かんでいた波がしょうしょうとひくと

くらげはぺしゃんこになって

渚にとりこのされた

ひとりになって

自分をあまやかしてくれた優しい波のことや

もはや

その波がなくては生きてゆけなくなっている

自分のことを考える

砂にまみれてぶかっこうなこの時間

波が満ちて再び

自分を包んでくれたらなにもかも忘れて

やっぱりあのように

ふわふわとおよいでいたいと思う

それ以外にどんな生もないのだ

すきとおった自分の中の海を熱くあつく

見つめながらくらげはどうしようもなく

ひとりであった




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邑久光明園  八木法日さん 八木千恵さん


 
(八木法日さん)

埋火の如く一句を抱いて寝る




菌ゼロの夫婦の窓に初日満つ




目を借りて一枚一枚読む賀状




春着縫う妻に日向をゆずろうか




植毛の眉とは知らず母がほめ




数珠をもむ私に虫は殺せない





(八木千恵さん)

天守閣望む古里瞳に収め




休日も雨も愚痴らぬ洗濯機




白い花花瓶の品をとり戻す




断絶の兄弟父母に墓で逢う




足りない指足がつとめて毛糸編む




血縁断ち骨になるまで夫の側



八木法日さん
邑久光明園。『虹のかけ橋』(昭和52年)に採録

八木千恵さん
邑久光明園。『虹のかけ橋』(昭和52年)に採録



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邑久光明園  日野澄雄さん

 

空白の残れる頁惜しみつつつつましき今日の日記したたむ





忘るべき君にはあらね痛き眼をつむれば乱る君の笑顔も





復りたる視力よろこぶその友と菊に寄りゆく多くを語らで





礼のべて義肢工作所のドア押せば雪ふりかかる補装具抱く胸に





新らしき補装具穿きて故郷の友に逢いたし雪ふりしきる





父母の墓に辿りつくまで死にたくなし旅の車窓に彼岸花もゆ





手さぐりに伝いて歩ゆむ冬の壁時計よりほかに音のなき夜半





よろこびはふつふつと胸に突き上ぐる矯正眼鏡に物見えし朝





今ぞふむ試歩路の土のたよりなくしかもたしかに土ふみて行く





風船の行方見ている車椅子兆す倖せ胸にためつつ




ひのすみお(日野澄雄)さんの略歴
昭和3年7月10日奈良県生まれ。昭和14年4月12日邑久光明園入園。「まひる野」所属。『光明苑』(昭和28年)『ハンセン療養所歌人全集』(昭和63年)。歌集『今日より明日へ』(平成11年)、『さあ、歩こう』(平成15年)。


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プロフィール

Author:水田 祐助
岡山県瀬戸内市。36才で脱サラ、現在67才、農業歴31年目。農業形態はセット野菜の宅配。人員1人、規模4反。少量多品目生産、他にニワトリ20羽。子供の頃、家は葉タバコ農家であり、脱サラ後の3年間は父が健在だった。
yuusuke325@mx91.tiki.ne.jp
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